Interviewsアスリート・インタビュー
オリンピック金メダル体験談から学ぶ、頂点に立ったからこそ見えた大事なこと
今回はオリンピック出場を目指すアスリート・インタビューということで、オリンピックチャンピオンへの道のりを探ろうと、実際にオリンピックで金メダルを獲得した志土地に集中的に質問を投げかけた。
―オリンピックで金メダルを獲得するために必要だと考えていることはズバリ何ですか?
志土地:「東京オリンピックを経験して実感したのは“平常心”が大事だということです。気持ちが昂り過ぎてもダメですし、不安な気持ちで臨んでも良いパフォーマンスができないので、“いつも通りで大丈夫”という気持ちでいます。平常心でいられたことで、金メダルという結果につながったのだと思います」
レスリングは日本代表に選出されること自体、非常に熾烈な争いである。
「特に軽量級は“国内で3位以内に入れば世界で金・銀・銅メダルを獲得できる”と言われる程、本当に国内予選が厳しいです。そのような代表選考を乗り越えたこと自体、自信になりました」と話す志土地。全日本選手権や世界選手権、そして東京オリンピックでも、“これまで数々の大舞台を勝ち抜いてきたから大丈夫”と、自分を奮い立たせて勝利を重ねていった。
その言葉を聞いた西本は「平常心が大事だということを、実際にオリンピックの舞台で金メダルを取られた志土地さんから伺って、自分にも活かしていきたいと思いました。自分と金メダリストが同じ考えを持っている部分も発見でき、“ああ、このままで大丈夫だ”と自信につながったので、ありがたいです」と、感謝の気持ちを伝えた。
清本は「私は気持ちの上げ下げが激しいので、平常心でいることの重要性を改めて感じました。自分にはまだまだ足りていないと思います」と今後の改善ポイントを見つけた様子。
そして、志土地はオリンピック金メダリストになるまでの日々をこう振り返った。
「陸上競技のようなタイムが重要な競技はギリギリまで選考されると思いますが、レスリングではオリンピック開催の1年前に日本代表が決まるので、他の競技と比較して短いスパンで、いかに自分のパフォーマンスの良い状態を (前回のオリンピックから)3年目に持っていけるかが重要です。
東京オリンピックではコロナ禍という困難な状況に全アスリートが直面していたので、“自分だけじゃない”という気持ちで頑張ることができました。試合会場に到着して、多くのボランティアの方や、大変な状況の中でサポートしてくださる方がいてくださったからこそ、東京オリンピックを迎えることができたのだと実感し、“自分だけの金メダルじゃない”という気持ちになりましたね」
―苦手なタイプの対戦相手との試合の時に考えていることや、気持ちの作り方、対策などはありますか?
この質問を寄せた西本は「僕が苦手な対戦相手は、何を考えているのか分からない、独特な雰囲気がある選手。相手の動きを読み切れないので、予想だにしないシャトルを打たれます。そういう対戦相手に対する準備や、試合中の対応をどのようにしているのか聞きたいです」とのこと。
志土地:「色々なタイプの選手がいますよね。私は対戦相手の特徴だけを捉えておいて、あとは自分のレスリングにつなげていきます。相手のことよりも、“自分がどうしたら良いか”を考えるようにしていて、そうすることによって苦手な選手にも最後まで粘り強く自分が攻撃を仕掛けることができます」
そう語る背景には、ある失敗からの気付きがあった。
「レスリングには右構え・左構え・両構えの選手がいます。以前、対戦相手の映像を見て戦い方を研究していた際に“この人は左構えだから”と対策をしていたのに、いざ試合では右構えで来られてしまったのです。そこからは、映像の見過ぎも良くないと思いました」
勿論、 “今日はこの技で攻めよう”と事前に考えている部分もあるが、相手がどのように攻めてくるのかは映像通りにいかないため、その場その場で瞬時に判断していることが多いと明かした。
臨機応変な対応はバトミントンの試合中も求められる。この志土地の話に西本は「素晴らしすぎて、ものすごく参考になりました」と感嘆の声をあげた。
試合中の心理状態がプレーに大きな影響を与えるゴルフ。
清本:「プロになるという夢が叶った途端、ずっとテレビの前で憧れていた選手とツアーを周ることになってしまったのです。緊張するのは勿論、練習グリーンのすみっこで小さくなりながら“邪魔しちゃいけない”と気を遣いすぎていました。ギャラリーの方に対しても“良いショットを見せたい”と思うあまり、自分にプレッシャーを与えてしまって…今では堂々とすることを意識したり、“私の一打で誰も何も思わないですよ”と言い聞かせたりしています。また、試合中は他の選手たちのショットをよく観察して、常に勉強しています」
ゴルフは1ラウンドで18ホールあるが、清本は18ホールを個別のホールとしてではなく、18ホール全てで1ホールと捉えることで、一打ごとの出来栄えを気にし過ぎないことも、自分にプレッシャーを与えないための秘訣とのこと。
成功体験も苦い経験も心の葛藤も、どんな瞬間も自身の成長の糧にする姿勢が、三人のアスリートをトップ選手と呼ばれるまでに押し上げたのだろう。
―オリンピック金メダルという大きな目標を達成したからこそ、今後挑戦してみたいことはありますか?
東京オリンピック後に志土地 翔太コーチと結婚し、当時「旧姓の向田でも金、志土地でも金」という目標を掲げていた志土地。やはり次に挑戦したいのは…
志土地:「“志土地でも金”もそうですし、子どもが生まれたので“ママでも金”を目指して、出産から1か月後に有酸素運動やウォーキングを再開しました。最近は、朝は夫が子供の面倒を見てくれている間にランニングをして、午後は子供も一緒にレスリング道場に連れていきます。私が実戦練習をしている間、夫が子供を抱っこしている感じです」
出産後間もない頃は、腹筋に力が入らず、懸垂ができなくなっている自分に“こんなに体が変わるのだ”と驚いたという。
育児と競技の両立は並大抵のことではないが、志土地からは全くそんな表情は見られない。
「練習で疲れた日も、子供の笑顔を見たらとても癒されますね。“また明日も頑張ろう”という気持ちになれるので、私にとって子供が生まれたことはとてもプラスだと思います。
結婚したから、子供を産んだからという理由で競技を引退するという選択をするのは私にとっては寂しい気持ちがありました。夫のサポートやジェイテクトからのサポートもあって、今も目標に向かって頑張れていることは、ありがたいですね」と笑顔で話す。
そして2026年秋に愛知県で開催が予定されている第20回アジア競技大会に向けて「ジェイテクトの地元でしっかりと金メダルを獲得したい」と語気を強めた。
西本と清本は、自身がオリンピックで金メダルを獲得する未来をどのように見ているのだろうか。
西本:「僕はたくさんテレビに出演し、たくさん取材していただくことで、ジェイテクトに恩返したいなと思っています」
ジェイテクトStingersには社業とバドミントンを両立している選手が多い。チームメイトの活躍の裏には職場の支えがあってこそ、と日常的に感じている西本はどんなインタビューにも“勝利でジェイテクトに貢献したい”という熱い思いを添える。
清本:「まだ現実味の無いことで想像がつかないですが、私は最終的に皆さんに夢を与えられる存在になりたいので、選手としても人としても成長していきたいです」
さて、各々、競技を始めたきっかけは家族の影響が大きいが、オリンピックを意識するようになったのはいつからか。
志土地:「私は中学から親元を離れてJOCエリートアカデミーに3期生として入学し、その頃から本格的にオリンピックを目指すようになりました」
JOCエリートアカデミーとは、国際競技大会で活躍できる選手の育成を目的に日本オリンピック委員会が設立した組織である。ちなみに志土地はJOCエリートアカデミー出身者で初のオリンピック金メダリストだ。
西本:「僕が小学校四年生の頃に開催された2004年アテネオリンピックがきっかけです。バドミントン男子シングルスでインドネシアの選手が金メダルに輝いたのをテレビで観て、自分もオリンピックで金メダルを取りたいなと。それがオリンピックへの憧れの始まりかなと思います」
清本:「ゴルフがオリンピック競技に復活したのは2016年リオデジャネイロオリンピック。その時に、“やっぱりオリンピックはどの競技でも出場できること自体がすごいな”と感じたのです。ゴルフに限らず、どの競技をやっていたとしても、私にとっては夢の舞台になっていたと思いますね」
2028年ロサンゼルスオリンピックを見据えた、三人の今年の抱負は・・・
2025年が始まって1か月経ち、2028年ロサンゼルスオリンピックを見据えた今年の抱負を色紙に書いて発表してもらった。
清本:「『2025年は絶対に勝ちます』です。新年を迎えて、目標をノートにまとめたときに“勝つぞ”という言葉が一番上に出てきました。昨年はチャンスがあったのに、それを掴み切れなかったという悔しさが残る1年でした。今年は昨年より多くのチャンスがあると思うので、絶対勝ちたいです。やっぱり皆さんの前で宣言することによって、実現しやすくなるかなと思います」
合格率約3%と言われるプロテストに一発でトップ合格を果たし、着実に夢への階段を駆け上がる清本。日本女子ゴルフ界の新星として多くのファンから寄せられる期待以上の活躍をしてくれるに違いない。
西本:「僕は『NEW西本』。全英オープンや世界選手権での優勝や、僕がまだ足を踏み入れていないバドミントンワールドツアーファイナルへの出場を果たすことで、今の自分を超えた、より進化した新たな自分に出会えるように、この一年しっかり頑張っていきたいです」
具体的に自身のどのような部分を磨きたいのか尋ねると、「勝てればいいです。僕も清本さんを見習って絶対勝ちます」という、がむしゃらに勝ちにこだわる姿勢が何とも西本らしい。
志土地:「『天皇杯優勝』です。今年12月の天皇杯全日本レスリング選手権大会が2026年アジア競技大会の予選という位置づけになるので、天皇杯で優勝をしてアジア競技大会に出場し、そこで金メダルを獲得できように頑張りたいです。“ママでも金”への第一歩ということで、“帰ってきたぞ”という姿を皆さんにお見せできるように頑張ります」と、隣でスヤスヤ眠る赤ちゃんに微笑みかける。
パリオリンピックに出場できなかったために成し遂げられなかったオリンピック二連覇の目標は、“ママとしてロサンゼルスオリンピックで二個目の金メダルを持ち帰る”という目標に生まれ変わった。
応援してくださる皆さんへ
この日、トークショーの開始前に3人はジェイテクト社員との交流会を実施した。ジェイテクト社員との会話を通じて感じたことや、日ごろ応援してくれているファンへのメッセージを聞くことができた。
清本:「私の調子が悪い時も良い時も、いつも応援してくださる皆さんの存在が本当に心の支えになっています。その方々のおかげでもっと頑張って強くなろうという気持ちになれるので、これからも応援よろしくお願いします。
また、ジェイテクトにはアマチュア時代からサポートしてもらっており、今日の交流会でも“その頃から応援しています”と言ってくださった方にお会いできて、とても嬉しかったです。実際にジェイテクト社員の皆さんも会場まで応援しに来てくれていますので、私は思う存分ゴルフを楽しんで結果を出して、ジェイテクトに貢献できたら良いな、と思います」
西本:「ジェイテクトの皆さん、ファンの皆さん、いつもたくさんの応援ありがとうございます。今日の交流会では、僕が海外遠征の際に、当時海外駐在員として会場に駆けつけてくれた方と再会でき、ジェイテクトがグローバル企業であることを改めて実感しました。海外遠征は時差もあって大変ですが、たくさんの“応援しているよ”という言葉が、大事なところで一歩踏ん張る原動力になっています。社員の皆さんが会社で頑張ってくれているおかげで僕は競技に専念できているので、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
僕たちアスリートができるのは結果を残すことであったり、子どもたちや応援してくださる方に夢や希望を与えたりすることだと思うので、そのためにも自分がやるべきことをしっかりやっていきたいです。今後ともよろしくお願いします」
志土地:「いつも応援していただき、ありがとうございます。今日は普段なかなかお会いする機会の少ない社員の皆さんから直接、 “頑張ってください”という言葉をかけてもらったことで、とても励みになりました。東京オリンピックが終わってからもジェイテクトの皆さんに引き続きサポートしていただいているからこそ、私は競技に専念できるので、私が今できることは金メダルを取って恩返しすることだと思います。
応援してくださる皆さんにはとても感謝していますし、その感謝の気持ちを忘れずにこれからも頑張っていきたいと思います。今後とも応援よろしくお願いします」
三人がロサンゼルスで再会を果たす日が待ち遠しい。
控室での裏話
三人は今日初めて顔を合わせたとは思えないほど、和気あいあいとした雰囲気で過ごす中、志土地が持参した東京オリンピック金メダルを西本と清本が各々の首に掛け、オリンピックチャンピオンのイメージトレーニングをする場面も・・・
「僕がおしゃべり好きなので、ずっと喋っていました」と言う西本に、清本は「私は毎日練習するのですが、西本さんから“あえて練習しない、というのもあるよ”と聞いて感心しました」と、アスリート同士らしい会話もあった。